風薫る
う、とか、え、とか、まとまらない文字ばかりを発してまごつく木戸さんに、本当に素直だなあ、と感心する。


「ところで木戸さん」

「う、うん?」

「そんなあなたに朗報です」

「……通販?」


遠慮なく意外と残酷に突っ込まれる。


通販って、そんなつもりは毛頭ない。そうか通販か……。


まあ確かにちょっと通販っぽかったけどさ。


それでも、木戸さんがわくわくしているのが伝わってくるからずるい。


ひどい、なんてふざけて言い返す隙さえないじゃんか。


「それ、続編あるんだけど読む?」

「うん!」


朗報を告げると、木戸さんの目がキラキラした。


絶対読むって言ってくれるだろうと思って、二巻目は持ってきている。


「今持ってるよ」

「え、察しがいいね」


まあ、相手は木戸さんなので、臆断もしやすいというものである。


あれほど簡単な二択もない。


「読むかな? うん、読むよな」だけ。


木戸さんに限って、読まないという選択肢はあり得ない。


「俺が来てるときは木戸さんも必ずいたし、司書さんとの会話を小耳に挟むにまとめて借りるタイプみたいだし、読むだろうなって」

「そっかあ」


納得した木戸さんが鞄を開け、……たんだけど、中身が結構詰まっていて、本がハードカバーなのも相まって入りそうにない。


ちらり、流し見るとものすごく残念そうだ。


鞄を凝視して唖然としている。
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