風薫る
昨日約束した通り、私は図書室に来ていた。


もうすぐ来るだろうけれど、これまた昨日聞いた通り、黒瀬君はまだ来ていない。


……少し、早く来すぎたかなあ。


自省。鞄を机の上に置いて昨日と同じ場所を陣取る。


今度はもっと上手く時間配分しよう、と決めて、あれ、と次いで疑問が浮かんだ。


次ってあるのかな。これからも黒瀬君と会うのだろうか。


何だか息ぴったりすぎて、話したのは昨日が初なのを忘れてしまう。


会ったら挨拶くらいしても変ではないと思うけれど、時間を決めて、なんてことがあるかは怪しい。


でももしできたら、迷惑じゃなかったら、また貸し借りしてみたいなあ。


今度は私から、何かきっかけを作れたらいいなと、楽しそうな未来を少し想像した。


この時期、入り口付近より奥の方が日当たりがよくて、春は断然過ごしやすい。


この図書室には冷暖房はついていないので、自分で調整しなければいけない。


私は陽だまりが好きだ。暖かい陽だまりを探すのも、どことなく小さな冒険のようで好きだった。


昨日も陽だまりを探して座ったので、今日も大体約束した場所で大丈夫。あとは黒瀬君を待つだけだ。


しばらくして、ごめんね、と息を切らせた黒瀬君がやって来た。


急いでくれたのが分かって何だか申し訳ない。
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