風薫る
「今日って教室掃除だったの?」


どうしてこの時間になったのかなあと思って質問すると、黒瀬君はすとんと頷いた。


「そう。俺は黒板担当だった」

「ああそっか、背高いもんね。ちゃんと届くのいいなあ」


私は全然届かない。


届かなすぎて飛んでみてもやっぱり一番上には届かなくて、誰かが代わりにやってくれる。


そして次からは、ローテーションで当番制のはずの黒板掃除は私にだけは回ってこなくなる。

実は楽しみにしてるんだけどな。


クラスメイトの配慮が無性に悲しいのはこういうとき。


黒瀬君に話してみると、それは仕方ないんじゃないかなあ、なんて当然の返答が返ってきた。


「背が小さいとこういうときに不便なんだよね……」


しょんぼりうなだれる私に、そうだよねえ、と頷く黒瀬君。


「黒板消すのなんて特に大変そうだよね。でも、逆にいいことってあったりしない?」


俺は今すぐはちょっと思いつかないんだけど、でも何かないかなあ、いいこと。


うんうん唸りつつ真剣に考えてくれる黒瀬君に、私も一緒に頭をひねる。
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