風薫る
ええと、いいこと、いいこと。


うーん、そうだなあ。


いいことは、黒瀬君に関係することならたくさんあるけれど。


本を取ってくれたこととか、今こうして話せていることとか、たくさんたくさんあるけれど、本人に言うのもどうかなあと自粛する。


「やっぱりいいことない?」


黙り込んだら黒瀬君が勘違いしたらしくて、しまった、という顔をした。


「違うよ違うよ、そうじゃなくてね……! ええと」


慌てて否定したものの、次の言葉がうまく出てこない。


この前思った通りに褒めたらなんでかひどいしっぺ返しを食らったし、思ったことをすぐ言うのは多分駄目なんだなって反省したし、ちょっと内容も似てるし……またやらかしたらどうしよう。


でも、黒瀬君に勘違いされたまま、いらない気遣いをさせちゃっても居心地悪いし。


不安だけれど、言い方を工夫すればなんとかなる気がする。


それにこれはいいことであって褒めることではないから、きっと何とかなるよね、うん。


散々迷ってから、慎重に口を開いた。


「たくさんあるよ」


続きを聞かれないように短く言ってみたけれど、たとえば? と返されてしまって、困る。


た、たとえば……!?


ええと、どうしよう。

なんとかなりそうな言い換えが思いつかない。


でも黙ってるのは感じ悪いし、ええと、ええーっと……!


ええい、言っちゃえ……!
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