風薫る
黒瀬君と話せて、今まで嘆いてきた低身長の不便さなんて気にならなくなるくらい、とても嬉しかった。


本好きな黒瀬君と話せることが、本当に楽しくて嬉しかった。


だから。


「背が小さくてよかったことはね、たくさんあるよ」

「っ」

「たくさんたくさんあるよ」


黒瀬君が深くうつむく。


「……そう、ですか」

「うん。そうですよー」


声色と敬語で黒瀬君が照れているのは丸分かりだったから、にっこり笑って少し明るくして、不遜な返しをしてみた。


う、と詰まった黒瀬君は疲れたように赤い顔でうなだれて、ああもうほんと、と。

ちらり、私を盗み見る。


「ねえ、木戸さん」


かすれた声。


「…………それはちょっと、反則じゃないかな」


困ったように照れ笑いした黒瀬君こそが、反則だった。
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