風薫る
「明日なら行けるから」

「でも」


煮え切らない私を説得するように、瑞穂がゆっくり言う。


「心配しなくても大丈夫だって。ね?」


私くらいしか借りない、という瑞穂の説は、あながち間違ってはいないけれど、一人思い当たる人がいる。


「借りる人、いるよ」

「え、彩香みたいに毎週足しげく通ってる人なんて他にいるの」


嘘でしょ、と目を丸くして呟く瑞穂に首を振る。


「一人だけいるよ、まとめて何冊も借りる人」

「……重度の本好きがまだいたなんて……」


世界は広いねえ、じゃないよ瑞穂。何その天然記念物を見たかのような眼差し。


「一週間に十冊は重度って言わない」

「いや、そんなに読んでたら重度だから。本の虫の常識で語らないの」


どうせ十冊以上読んでるんだろうしね、と瑞穂が補足した。


完全に読まれている。


「……本当は週に二十冊」

「鯖読みすぎでしょ、それ」


何であたしに対して鯖読んでるの、なんて呟いている瑞穂はスルー。
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