風薫る
ちょっと困ってお互いに視線を外し、二人で沈黙して、ゆっくり顔を上げると。

目が合って、慌ててもう一度外して。

そろりと振り向くと、やっぱり目が合って。


二人で照れ笑いをした。


視線を泳がせた拍子に、黒瀬君が少し寒そうに腕を組んだ。

腕をさすって摩擦熱を起こしている。


「あ、席詰める?」


寒いのかなあと思って声をかけると、ん? と首を傾げられた。


黒瀬君のところは日当たりが少々悪くて、空けた真ん中はしっかり日が当たって暖かそうだ。


「こっち、あったかいよ」


ぐだー、と机の上に伸びてみせる。


うん、やっぱり机が熱を持って暖かい。


「いや、俺はいいよ。大丈夫。ありがとう」


ぐっと詰まった黒瀬君に早口に言われたけれど、そのまま見つめること、数十秒。


「あったかいよー?」


泳がせた目を私に戻して定め、間を置いてしばらく迷い。

うんうん悩んでもう一度考えて、目が合って。


ふふ、と小さく噴いてから、そうだね、と場所を移った。
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