風薫る
今はもう、あの頃のように無邪気に四つ葉を集めてはいないけれど。


見つけたら一つ手折って持ち帰ってみようか。

お母さんはどんな顔をするだろう。


懐かしいね、と、最近めっきり多くなった笑いじわを刻むのだろうか。


「今日帰りに河原に寄って行こうかなあ」


久しぶりに四つ葉を見つけるのも、幼い頃の思い出の宝探しみたいで悪くないよね。


図書室が閉まってから少しくらい寄り道をしても、季節柄、まだ外は明るい。


今日はずっと晴れていたので、制服が濡れる心配もない。


「四つ葉見つけに行くの?」

「うん。帰りに行こうと思ってる」


そうなんだ、と頷いた黒瀬君は、さらりと言った。


「じゃあ俺も混ぜて」

「……え?」


予想外なお願いに焦る。


「四つ葉探し、するの?」


駄目だよ、と思わずもれた。


「制服汚れるよ黒瀬君!」


河原に行ったらきっと土がついてしまう。


自分でしているのか、それともお家の人がしているのか分からないけれど、黒瀬君の制服はいつも糊がきいてきちんと整えてあるのに、どろどろにするわけにはいかないよ。


せっかくの手間が無駄になってしまう。


「別にいいよ」

「駄目だよ……!」


反論は上手くできないまま、制服汚れるのは木戸さんもでしょ、と指摘されてしまい。


「そうだけれど、」

「……俺と一緒にいたくないってこと?」


それなら遠慮する。……ごめん。


ふい、と横を向いた黒瀬君の言葉で固まった。


少し拗ねた横顔。
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