風薫る




「わ、じゃあ明日も会ってくれる?」

「え、それは、うん」

「やった!」


目が輝くのは木戸さんらしい長所で、俺結構頑張ったはずなのに木戸さんに押されてるってどういうわけだ。


木戸さんはたまに素でずるい。


本当に唐突に、不意に抱きしめたくなるくらい可愛くなるから、動揺が隠せずに固まるんだ。


顔が赤くなった自覚はあって、ばたんと机に伏せる。


「黒瀬君?」

「……ごめん、今日はちょっと、その、先行っててください……」


一緒に行きたいけど行けそうになかった。


今顔上げたらやばい。何がって、……それは。


ちょうどよく震えた携帯を横目で確認すると、母親から早く帰ってくること、と連絡が入っていた。


あのさ木戸さん、と絞り出した呼びかけは短く済ます。


「明日なら行けるんだけど、明日一緒に四つ葉見つけに行ってくれない?」


今日行くって言ってたのに、混ぜてなんて言ったのにごめん。


「分かった。用事?」


自分でも心当たりがないけど、まあ何かあるんだろう。


とりあえず、うん、ちょっと、と答えた声は表情を見なくても分かるほどに落胆していたらしい。


木戸さんが慌てた。


「大丈夫だよ、急ぎじゃないから」


私も一人より黒瀬君と一緒がいいよ、なんて優しい甘えどころをくれる。
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