風薫る




大きくなるざわめき。上がった悲鳴。物珍しそうな視線。


全部を横目で受けとめて、そっと思う。


……まあ俺、今まで女子とそんなに話さなかったし、大抵敬語だし、ふざけてでもそういうこと言わなかったし、目立つのは仕方ない。


分かった、と至って自然に了承した木戸さんの耳を意図的に話し声で塞いで、いろいろを聞こえないようにする。


話題は本のことにした。本なら木戸さんは周りの声を気にしなくなる。


分かったって言っていたけど、木戸さんは俺が言ったことの意味を理解しているんだろうか。


結構頑張ったんだけど、多分全然伝わってない気がする。


……不安だ。


少し沈みつつ、にこにこしている木戸さんと若干早足で通り抜ける。


下駄箱で別れて、傘立てで集合して、急ぎ足に校門を抜けた。


「……ええと、ごめん黒瀬君、西公園ってどっちだったかな」


校門を出ると道が二手に分かれる。


半歩分前を歩いていた木戸さんが、左右を迷って立ち止まった。


「右だよ」

「ありがとう」


まだ微笑みを絶やさない木戸さんが、今度こそ隣に並ぶ。


多分、さっきまでは、早く抜けたくて急いでいたんだろう。
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