風薫る
……それにしても、木戸さんがずっと笑ったままなのが少し気になる。


俺としては、笑って、というのは校内だけのつもりで言ったんだけど、もしかしてずっと笑っておくことにしたのかな。


お願いをきちんと守ってくれる人なのが分かって、いい人だなあ、と思った。


でも大変だろうから、頃合いを見て止めようと、特に何も指摘しないで角を曲がった。


そして、曲がったら、溜め息混じりに木戸さんの仮面が外れた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………そ、空が青いね、黒瀬君」


ぎこちなく繰り出した話題は、多分選択を間違っている。


「そうだね」


頷いたものの思わず笑いがもれて、木戸さんが訝しげにこちらを見た。


わああどうしよう、とその顔に書いてある。


話題なんて、木戸さんと話せれば俺は何でもいいのに。

いつもと変わらないもので構わないのに、一緒に帰ったことがないから混乱しているのだろうか。


図書室を出ると本がないから口下手になる方向に人が変わる、みたいな。


自分の考えに思わず噴いた。


本好きすぎて、木戸さんなら充分あり得そうだった。
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