風薫る
「木戸さん、相手が無言苦手だと自分も無言苦手じゃない?」

「……うん、実は」


ゆっくり頷いた木戸さんに頷き返す。


俺もそうだ。


相手が無言が苦手だと、苦手な雰囲気とでも言えばいいのか、何か微妙な空気が伝わってきて、ちょっと居心地悪くなるというか。

焦るというか。


何か話さなきゃ、どうしようって慌ててしまう。


そう説明すると、同じ理由だったらしい木戸さんは強張った表情を少し崩した。


「俺は好きだよ。木戸さんなら無言でも嫌じゃない」


木戸さんはときどきふと、黙り込んで遠い目をする。


言わないでいるうちは無理に聞かないけど、何を考えてるのか分からなくはない。


だって絶対、本のこと考えてる。


ときたま横たわる沈黙なんて、そんな勝手な確信があれば足りるから。


木戸さんとの沈黙は、不思議と奇妙に落ち着くんだ。


「だから焦んないで。大丈夫」


大丈夫だからね。言い聞かせるみたいに繰り返す。


「うん……!」


木戸さんはやっと自然に笑った。
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