風薫る
「入ってないよ」


やっぱりそうなんだ。


納得しつつ、でもどこかで木戸さんは文芸部に入っていそうな気がしていた。


文芸部は大抵半年に一冊部誌を発行している。

書くのじゃなくて読むのが好きな人だから、そうすると読む専門の部活はうちにはなくて、どこにも入らなかったのかもしれない。


……もしそうだとしたら、俺と同じだ。


黒瀬君は? と聞かれて、俺も入ってない、と返せば。


「そっかあ、入ってない者同士だね」


お揃いみたい、というのは聞かせるつもりはなかったんだろう。

聞かせるつもりならちゃんと音をのせるはずで。


でも、お揃いみたい、って楽しそうに笑う口元から、そう唇で読めた。


……不意打ちはずるい。


「黒瀬君?」

「き、っ」


何を言おうとしてた、俺。落ち着け落ち着け。


木戸さんと会うのにその後予定を入れてくるわけがないよ、と口を滑らせかけて慌てて息を吸った。


そうしたらむせて心配させてしまって。


馬鹿だとは思うけど、息を吐いたらそのまま言ってしまいそうだったので仕方ない。


自業自得だからと手を振れば、よく分からなかったのか首を傾げていた。
< 78 / 281 >

この作品をシェア

pagetop