風薫る
「……もったいないかなあって、ちょっと思うよ」

「うん?」


もったいない?


伝わっていないのを読み取ってくれた木戸さんが、照れたようにそっと付け足した。


「部活にしたら、その……二人で話せなくなる、から」

「っ」

「だからこのままがいいな、なんて我がままだけれど」


でも、できたらこのままがいいな、と。


近くにいないと聞き取りにくいほどの大きさでそんなことを言う。


照れるなあ、と思った。

ずるいなあ、と思った。


「そうだね。このままでいっか」


きっと大丈夫。


無理に繋がりを持とうとしなくても、部活という会えるのを確信できる場所がなくても、そんな重たい約束で縛らなくても、大丈夫。


共通点を俺たちはたくさん持っているから。


焦らなくても大丈夫なはずなんだ。


「そういえば」

「うん」

「四つ葉と同じで、三つ葉の花言葉も幸福なんだね」

「うん、って、え?」


木戸さんがあまりに驚くので焦った。


何、どうした。もしかして俺間違ったかな。


「く、黒瀬君!!」

「は、はい」


木戸さんのつっかえように俺もつかえて敬語になったけど、それすらもお構いなしに。


「あの、調べて……くれたの?」

「うん」


すとんと頷くと、木戸さんが嬉しそうに笑った。
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