風薫る
とんとん、としっかり二回叩き終わってから、木戸さんはこちらを振り返った。


「うん、何?」


よかったら、と差し出したのは小ぶりの五つ葉だ。


「ありがとう!」


早速袋にしまってから、どこにあったの? と聞かれて、あの辺りかな、とおおよその位置を指差した。


木戸さんは駆け寄って緑を掻き分けている。


「あった?」

「ううん、ない……あ!」

「お、あった?」


近寄ると、五つ葉じゃないけれど、と勢いよく振り向いた木戸さんに満面の笑みで見せられたのは四つ葉だった。


「あったよ!」

「よかったね」


声をかけると、にっこり笑って頷かれた。


よかったあ、と安堵の溜め息を吐いている。


俺ばかり見つけるので内心焦っていたらしい。


パンパン、とスカートの裾をはたいて立ち上がった木戸さん。


「どうする? 帰る?」

「うーん、そうだねえ」


そうは言ってみたものの、正直名残惜しい。


四つ葉は見つかったけど、もっと一緒にいたかった。


だから。


「まだ明るいし、花冠作ってもいい?」


続けられた言葉に、普段の木戸さんのように大きく頷く。
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