風薫る



「え」


離れていった大きな手が髪をかすった。


よし、と満足げに頷いて。


「うん、可愛い。やっぱり木戸さんは似合うよ」


さらりと言った黒瀬君が私の頭にのせたのは、避けておいた私作の花冠。


「黒瀬君も似合うよ?」

「木戸さんは、でしょ」


細かく訂正して、俺は似合わないよ、としきりに頭を気にする黒瀬君に笑う。


似合うよ、

似合わないの、

似合うってば、

似合わないってば、


と、じゃれあいのような言い合いをしていると。


「俺のは……下手だし」


下手じゃなければいいのか、なんて言ってしまったらいけない。


気付いていない黒瀬君に黙って続ける。


「私のと交換する?」


意図的にからかうと早口の返答が返ってきた。


「そういう問題じゃなくてですね!」


黒瀬君は照れるとたまに敬語が混じる。


照れたとき、多分怒ったときも、きっと何かしら強い口調になるときに、きつく言い過ぎないようにだろう。


語尾を弱くするそういう言葉の選び方が、いいなあと思う。


「でもほら、私は小さい頃なんて毎日のように作ってたよ」

「それは……そうだけど」


何だか悔しいらしい。
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