風薫る
「っ」 


この本も駄目かぁ……。私はがくりと肩を落とした。



放課後。図書室に来た私に、やはりというか何というか、一つの難題が生じていた。


入ってすぐ左に新刊のコーナーがある。


でも、計五冊ある読みたい本のうち、三冊は上段にあって手が届かなかった。


図書委員さんは姿も見えないし、司書さんは前にも助けてもらったことがあるし、本当どうしよう……。


横で一つにまとめた髪をばっさばっさとうるさく揺らしながら、懸命にジャンプしてみた。届かなかった。

一番脚が長い椅子を運んできて、それに立ってみた。届かなかった。


いろいろ力闘したものの、優しそうな木材特有の香りがする本棚が手強すぎる。


じわり、視界がにじんだ。


……ああ、もう、どうしよう……!


慌てていると、ぼやけた本棚が、ふいに、歪んでいてもそれと分かるほど突然陰った。


こちらに近付く気配がある。


不審に思って後ろを振り返ると。


少し離れた場所に、黒瀬君が立っていた。
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