風薫る
「っ」


……黒瀬君は知らないのだろう。


この柔らかい雰囲気は、きっと。知らない。


知らないはずだよ。


知っていたら、さっきの私へのお返しだって、おそらく黒瀬君はのせてくれない。


ね、黒瀬君。あのね、シロツメクサの花冠を頭にのせるのってね。


私のものになって、ってことなんだよ。


私もさっき思い出したから人のことは言えないけれど、だから二人とも無効だと思うけれど。


なんで今なんだろう。


赤いのなんて、褒めて隠すしか方法がない。


「すごいね、上達してるね!」


小さな勇気さえ出せなくて、当たり前の感想で誤魔化した。


速いし、最後の繋ぎ目も自分でしているし、花もシロツメクサだけではなくなったし、実際すごく進歩している。


すごいねと繰り返していたら、うるさい心臓は収まる気がしていたのに。


「……言いすぎ」


照れた横顔に上昇する。


二人で照れて、誤魔化して、なんとか落ち着いて。


黒瀬君が私を呼んだ。


「木戸さん、帰ろうか」

「あ、うん……!」


ばたばたと急いで荷物を整理して、黒瀬君を見上げる。


「準備完了です、隊長!」

「あ、俺隊長なんだ」

「です」


頷くと、笑った黒瀬君が少し熟考して、「じゃあ、隊長責任として義務を果たそうかな」とこぼした。


ノリよく何かしてくれるらしい。さすがです。


「隊長責任?」


わくわくしながら聞く。


黒瀬君はにっこり私を振り返って、言った。


「木戸さんの安全確保」


だから送るよ。
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