風薫る
黒瀬君とたくさん話すのは楽しかったけれど、あの後私が送ってもらえることはなく、こちらから言い出すのも迷惑なのではないかと黙ったまま。


新緑の季節はすでに半ばを過ぎていた。


最近、湿気が空気に含まれ始めたばかりだ。


相変わらず私は図書室に通い、黒瀬君は図書室で私を待っていてくれる。


そして私は今、危機的状況下にあった。


どうしよう、と一人固まる私。隣には黒瀬君。


手に本を抱えたまま微動だにしない私を訝しげに見やって、黒瀬君が首を傾げた。


「木戸さん? どうしたの?」

「黒瀬君ー……」


ちょっと涙目になりながら、覗き込む黒瀬君を見上げる。


「鞄に本が入らないよ……!」


蔵書まで借りたのが悪かった。


いくら荷物が少ない日といえど、黒瀬君からも借りているのに、鞄一つに収まるはずがない。


鞄は全ての本が入りきらないままで膨らんでしまっている。


これ以上詰めたら口が閉じなくなるのは明らかで、多分危ない。鞄が壊れてしまう。


大丈夫だと思ったんだけれど、無理だったらしい。
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