風薫る
「どうしよう……」

「うーん、手に持つのは変だしね……」


図書室の長机に並べた本たちを見つめながら、どうしようか、どうしようね、と二人で考え込む。


残りは文庫三冊。文庫なだけまだいいけれど、やはり手に持つのは憚られる。


唸るみたいに喉を鳴らして悩んでいた黒瀬君が、つ、と迷ったように視線を泳がせた。


「あの、さ」

「うん」

「……俺の、鞄に入れるとか」


どうかな、と珍しくぼそぼそ話す黒瀬君。


「鞄を二つ持つのは無理かなあと思います……」


重いよ。今でさえ重いのに。


不満げな私に、黒瀬君は苦笑した。


「そうじゃないよ。送ろうか、って聞いてるんだよ」

「……この前みたいに?」

「そうだね、そうなるかな」


そっと聞くと至って普通に頷かれる。


黙りこむと、困った顔をした。


「嫌なら断って」


本を人質に取ったりなんてしないから、なんておどけて言う。


道化の振りをしてくれるのはきっと黒瀬君の優しさで。


嫌じゃないし、黒瀬君がそんなことをする人だなんて全然考えてもいないけれど、迷惑なのではないかと勘ぐってしまう。


でも、とかろうじて呟いた私から、弱りきった顔をそむけて。


「あのね、木戸さん」

「うん」


黒瀬君は実に珍しく、拗ねた口調で俯いた。


「よーするに、俺が送りたいだけなんだけど」


駄目ですか。


そう付け足した声が掠れていた。
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