風薫る
「だっ……駄目じゃないよ全然!」


ぶんぶん振った首を上げる。


駄目なはずがない。


だって黒瀬君と話すの楽しかった。


一緒に帰るの、初めてで緊張して、周りに何だか見られて、でも。


とっても楽しかった。


「嬉しいよ」


鞄を握り締める黒瀬君が、ようやくこちらを見てくれた。それだけで笑顔になる。


「ありがとう」

「えっと」

「一緒に帰ろう、黒瀬君」


黒瀬君が目を見張った。


その目がだんだん弧を描いていく。口元からゆっくり笑ってくれた。


黒瀬君の微笑みは、いつも綺麗で優しい。


「……そうだね。帰ろうか」

「うん。お願いします」


本を黒瀬君に渡す。向きは黒瀬君に合わせてある。


それらをとても優しい手付きで受け取ってくれた。


本を大切にする姿勢はずっと変わらない。


「うん。任されました」


びし、とふざけたように敬礼して、そうっと鞄にしまうものだから笑う。


入れ終わった黒瀬君に促され、私たちは揃って図書室を出た。
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