風薫る
失礼しました、と挨拶して扉を静かに閉め、隣の黒瀬君を見上げる。


この前もそうだったけれど、さりげなく歩幅を合わせてくれる優しさがくすぐったい。


ふふふ、とにやにやする私を黒瀬君が不審げに見た。


ど、どうしたの。笑い方が気持ち悪かっただろうか。


「木戸さん」

「う、うん」

「どうしたの?」


うっ。直球が来た。

笑い方が変だったんですね。


慌てて弁明しようと口を開いた。


「く、ろ瀬くんと帰るのはたっ……」

「うん」

「た、」


改めて本人に向かって、楽しいとか嬉しいとか言うのは結構恥ずかしい。


楽しいよー! 嬉しいんだよー! と、何だかすごく力んでいるみたいになるから。


噛み噛みな私。


「たっ……ええと、何でもない」


ぼそぼそ誤魔化すと、ええ!? と叫ばれた。


「そこは言ってよ!」

「でも前にも言ったよ、同じことだよ」


抵抗する私をいやいやいや、と念入りに否定。


言ってよ、じゃなくてですね。


恥ずかしいんだよ……!


「同じだって何だって、俺は気になるし聞きたいよ」
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