いてくれて、ありがとう
数ヶ月経って付き合いも落ちついてきたころ、私は仕事で後輩の男の子と組むことになった。
プロジェクトが佳境に入ると二人きりで残業しなければならない日もしばしばで始めた。

そんな日が一週間ほど続いた時、今日も残業だね、と後輩と話していたら、仕事をおえた悟がやってきた。

悟は後輩がいるのが目に入らないのか、私の目の前に立ち止まると、貧乏ゆすりをするように肩を上下させながら、今日はいつ終わるの、ときいてきた。

残業続きであっても悟とは毎晩会っていた。たとえ疲れて帰ってすぐに寝たくても、家には悟が待っていた。疲れているから休ませて、と言っても、一度は私を抱かないと悟は納得しなかった。
オフィスに男と二人きりなんてありえないと言い、男はバカだから体を重ねたら安心するからといい、疲れた私をとにかく一度は抱いた。

そんな日が続けば、悟以外の人と話をしてリフレッシュしたくなることもある。昼食を同僚たちととった日の夜には、志帆は俺との時間から削っていくんだね、それは勝手だよね、とより一層激しく、私を抱いた。

私の疲労は仕事ばかりではなかったのだ。

今日はいつ終わるの、という悟の声は、なんだかイラついたような感じだった。大の男が駄々をこねている、そんな風に私の目にはうつった。
後輩の前でそんな恥ずかしい態度とらないで、と思わず喉の奥から出そうになるのを必死でこらえた。

明日のプレゼンの資料ができれば帰れるから、あと3時間ぐらいかな、と悟の苛立ちには気がついてないかのような、冷静な言葉で答えた。

じゃあ、待ってるから。

吐き捨てるようにいって、悟は自分のデスクの方へと戻っていた。
後輩が少し顔を引きつらせながら黙っていた。駄々っ子のようだ、といっても大柄な悟がイラついている様はどことなく怖い。後輩は気の弱い方だったので尚更だったのではないだろうか。

先輩、僕、一人でやりましょうか?

一人でやるにはあまりにも多い量。後輩一人でとなると、彼は終電をのがすだろう。

気にしなくていいよ。はやく仕上げちゃおうよ。

後輩から悟が見えないよう、体を移動させる。気にしなくていいよといった私の言葉に悟が苛立ちを大きくしていることを後輩に見られたくなかった。悟に向けた背中がヒリヒリとした。
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