Sweet Love
 足元でガッシャーンと、けたたましい音が鳴り響いた。


 無理にまとめて出そうとしたあたしは、どうやら誤って手を滑らせ、グラスを割ってしまったらしい。



「あ……」

「あ」

「ご、ごめん!」



 あたしは、慌てて割れたグラスの破片を拾おうとする。その瞬間、牧原があたしに向かって大声を張り上げた。



「おい! 触るな!」



 その声の大きさにあたしはビクッと怯み、割れた破片を拾おうとしていた手を静止させる。



「触らなくていい。俺がやる。ちょっとあっち行ってて」

「で、でも…」

「怪我したら困るから、早くあっち行って」



 戸惑いながらも、渋々あたしは邪魔にならない場所へ移動した。



「牧原、ごめんね。怒ってる?」

「別に怒ってない」



 あたしには、今牧原の背中しか見えない。



 ――表情が見えないから怒ってるのか怒ってないのかよくわからないよ。どうして、そんなに素っ気ない態度を取るの? 



 前はこんな態度取られたくらいで気にしなかったのに、今はどうしてこんなに怖じ気付いているんだろう。



「それ、高いの? 弁償するよ? あたし…」
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