Sweet Love
 その日の授業中、あたしは全くと言っていいほど集中できていなかった。


 ノートの端っこを利用して、無駄にハートマークを落書きしながら、授業は淡々と進んでいく。



 牧原が最近謎すぎる。

 確実にあたし、接しづらくなっているな。

 牧原に気を遣ったことなんて、そんなにないんだけどなぁ。

 いつから牧原の態度をこんなにも敏感に感じるようになってしまったんだろう。



 そんなことを繰り返しぼんやりと思考しながら、授業はいつの間にか全部終わっていた。


 帰りのホームルームも終わり、あたしは萩原に漫画を渡すため、席を立ち上がった。



「萩原、ごめん。漫画、遅れちゃって」



 あたしは、漫画が入った紙袋を萩原に差し出した。



「ああ、忘れてた」

「とりあえず、五冊ずつ持ってくるから、読み終わったら牧原に返却よろしく」

「ん、了解」



 あたしはいつも、学校が終わったあとは牧原と一緒に帰っている。方向が同じだからっていう理由。ただそれだけだ。


 でも今日は、自分から牧原に近付くことはできなかった。


 鞄を持ったあたしは、麗美と萩原にだけ挨拶を残す。牧原と目を合わせぬようにして、クラスの子に紛れながら、一人で教室を出た。そしてそのまま、逃げるように昇降口へと直行した。


 一人で帰るのは久々。


 隣に牧原が居ないと、こんなにも静かだ。ほんの少し寂しさを感じながら、トボトボと階段を下りていく。
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