Sweet Love
 玄関でローファーに履き替えていると、遠くから廊下を走って来る足音が耳に届いた。


 その足音は荒い息遣いと共に、どんどんあたしの方へと近付いてくる。



「…牧原」



 髪を乱しながら走ってきたのは、牧原だった。



「な…んで、先に帰るんだよ」

「…ごめん…」



 牧原は素早くスニーカーに履き替える。どうやら怒ってはいないようだ。



「行くぞ」

「あ、うん」



 あたし達はそのまま学校の校門を抜け、いつものように坂を下っていく。



「あのさ、今日お前様子変じゃない? 昼休みくらいから」

「……そんなことないけど」

「…そんなことあるって。お前さっき、わざと目合わせないように先に行っただろ。あんなのバレバレだから」



 げ。…バレてたのかあ。



 牧原には敵わないな、と思いながら、さっきの変な怒りはもうすっかり消え失せていた。



「ごめん、牧原。あ、さっきちゃんと萩原に漫画渡しといたから」

「さっき見てたし」



 あんた、見てたのかいっ!



「牧原。あんたこのあと、暇?」

「…特に予定は入ってないけど」

「じゃ、アイス食べに行こう。暑くて家まで持たないかも、あたし」



 牧原は長い息を吐き出す。仕方ないといった様子で「じゃあ、行くか」と言ってくれた。


 あたし達はそのまま駅前通りに行くと、この間四人で行った 『あいすくりーむ』へと入った。
< 130 / 199 >

この作品をシェア

pagetop