Sweet Love
 互いの視線が交錯する中、牧原が耳元で囁いた。



「こんなことするからダメなんだって」



 一瞬、ドキッと心臓が鳴ったような気がした。



「…だって見たんでしょ、あんた」



 あたしは、反射的に牧原から離れた。



「そっちが見せてきたんでしょ。言わなかったら、ずっとそのままだっただろ」

「別に見せたくて見せたわけじゃないし!」



 あたしは手をギュッと握り、牧原に殴りそうになる怒りを必死に抑えた。


 握っている手の中で、指先の爪が皮膚に突き刺さる。


 軽蔑した視線を送りながら、あたしは黙って牧原の顔を見ていた。



「…そんな目で見るなって。ていうか全然直す気ないだろ、松田」

「あんただから、いいんだってば。何であんたの前でも我慢しなくちゃならなっ、」



 牧原の大きな手があたしの口をがっちりと塞ぎ、そのおかげであたしはフガッと鼻から変な音を出してしまう。



「声でかいから」



 あ、また心臓がドキッて鳴った…。

 ドキッてなんだ、ドキッて。



「もう少し、静かに話してね」



 と言って、牧原はにやりと笑う。


 あたしがこくんと頷くと、牧原の大きな手が離れた。



「……」

「どうかした? 顔赤いけど…」

「…別に。なんでもない」



 このドキドキは一体何?


 自分でもよくわからない漠然とした何かが、胸の辺りをギュッと締め付けた。



 ……ダメ。

 こんなやつにドキドキするのがおかしいんだわ、あたし。



 あたしは自分にそう言い聞かせた。



「牧原、教室戻ろっか」

「もう、いいの?」

「うん。日曜日はとりあえず、頑張るよ」



 図書室の開けた通路に出ると、生徒の数は先ほどよりも明らかに増えていた。


 聞こえていたんじゃないかと内心ヒヤヒヤしながら、あたしの歩く速度はスピードを増し、つい早歩きになる。


 あたし達は図書室の引き戸をそっと開け、逃げるようにその場から退散した。
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