Sweet Love
 牧原と視線が交わる。だが牧原は、すぐにあたしから視線を外した。



「…似合ってるんじゃない」

「ちょっと。何でそんな素っ気ないのよ」



 あたしは牧原を睥睨しながら、仁王立ちになっていた。


 牧原の意味不明な態度に、いつも以上にイライラする。



「……」

「ちょっと! 何で黙ってるのよ! 何か言いなさいよ!」



 牧原はすっくと立ち上がり、そのままリビングのドアに向かって部屋を出ようとした。



「ちょ、ちょっと!」



 ドアの閉まる音が、静まり返ったリビングに反響した。



「何…なのよ、…アイツ」



 牧原の階段を上る足音が耳に届く。



 何であんな顔するのよ。

 しかも、どうして黙って出て行くのよ。



 あたしの手は強く拳を握っていた。



「ゆ、裕子…」

「裕子ちゃん。そんなに、怒らないであげて」

「だって、…だって」



 視界が涙で歪んでいく。溜まった涙が、フローリングにゆっくりと零れ落ちていく。



「裕子…」

「麗美、ちょっとごめん」



 あたしはごしりと腕で涙を拭いながら顔を上げた。



「…愛香さん、あたし、着替えて来ます」



 愛香さんは眉を下げながら、少し控えめに微笑んでいる。



「今日、お洋服持って行っていいからね」

「…すいません。借りさせてもらいます」

「ううん。裕子ちゃん、良かったら貰って? そのお洋服」

「え、…でも」

「大丈夫。そんなに似合ってるんだもん。もったいないでしょ。ヒデも、きっとわかってるわよ。…わたしね、これから店長会議に出席しなくちゃならないの。お話、また今度ゆっくりしましょう」



 愛香さんが腕時計を気にしながら、あたしの肩をポンと叩いた。



「あなたなら、きっと大丈夫。わたしもこれから準備して、すぐ出ないと」

「あ、あの…」
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