Sweet Love
 牧原は横顔を覗かせながら、横目でこちらを見た。



「いいから。早く」



 牧原に急かされたあたしは、躊躇いながらもその場を立ち上がる。


 恐る恐る牧原の肩へ腕を回すと、心臓が一瞬とくん、と跳ねた。



「…ごめん、牧原」



 牧原は「よっ」と気合いを入れたあと、そのままあたしを背負ってゆっくりと立ち上がった。


 最初の一歩で一瞬よろめいたが、牧原はすぐに体勢を立て直す。


 牧原の背中はとても広くて、やけに熱い。


 牧原に背負われてるせいか、目に入る景色がいつもとどこか違う。


 さっきは走ってて景色なんて見ている余裕はなかったけれど、川の流れがさらさらと穏やかに音を立てていて、今はひたすら流れるだけの川のせせらぎがはっきりと感じられた。


 じっと川面を見つめていると、カルガモの親子が群れとなってプカプカと浮かんでいるのが目に入る。カルガモのひな達が一生懸命になって母ガモを追いかける姿を見ると、とても愛らしい。



「松田」

「ん?」

「意外と重い」

「……」



 なんて失礼なんだ、コイツは。

 重いとか、普通に女の子の前で言うな。

 …バカ。



「あとさ、首絞めすぎ」

「あ、ごめん」



 知らないうちに腕に、…力入ってたんだ。



 反射的に腕の力を緩めると、牧原はまた「よっ」と言って、あたしの体を下から上に突き上げるような動きで体勢を整え、再びゆっくりと歩を進めて行く。


 川沿いを歩いていると、クラスの何人かとすれ違った。


 羞恥を堪えながら、あたしは大人しく牧原に背負われていた。
< 174 / 199 >

この作品をシェア

pagetop