Sweet Love
 ガーゼを膝に当てながら、牧原は遠慮なく消毒液をぶっかけてきた。



「いっ…た」



 先ほどよりも更にジワジワと痛みが襲ってきて、思わず顔を顰めた。


 ガーゼで土の汚れと乾いてしまった滲んだ血を少し押さえると、もう一方の膝も同じように消毒をし始めた。



「いっ、たあ」

「だから我慢しろって。それにしても本当にひどいな、この怪我。範囲広過ぎて、普通の絆創膏じゃ足りないんじゃないの、これ」



 手に持った絆創膏と膝の擦り傷を交互に見ながら牧原は言った。



「…確かに」



 改めて両膝を見てみると、怪我の大きさは結構ある。


 牧原は救急箱の中をガサゴソと漁り始めた。



「あ、あった。大きい絆創膏あるけど、これでも貼っとく?」



 牧原は、“特大”と書かれた絆創膏の箱を手に持ちながら見せてきた。



「いいよ。ていうか、ありがとう。自分で貼るよ」



 そう言って、牧原から箱を奪い、絆創膏二枚を取り出した。



「あのさ」



 牧原が救急箱を手に持ち、棚に戻しながら言った。



「何?」



 牧原は振り返り、あたしを真っ直ぐに見据える。



「一昨日は、ごめん。悪かった」



 牧原は申し訳なさそうな顔で、眉を下げる。とても反省しているように見えた。



「いいよ。あたしも、ちょっと言い過ぎたし」



 絆創膏も貼り終えて、立ち上がろうとしたその瞬間、ベッドの軋む音と微かにもそもそと動いている気配を感じたあたし達二人は顔を見合わせた。



「ねえ、今…」



 牧原は頷き、ベッドの方に注目した。



 …全然、入ったとき気にしてなかった。

 どうしてカーテン閉まってるのに気付かなかったんだろう、あたし。



 あたしも気配がする方へ視線を投げ、黙って様子を見ていると、半端に閉まっているカーテンの向こう側から人影がゆらりと揺らめいた。


 あたしは息を呑み、じっとその様子を見つめる。
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