Sweet Love
「何?」



 振り返る先輩に、あたしは掛ける言葉を続けた。



「あ、あの、また今度ご飯一緒に行きたいです」

「俺でよければいつでもいいよ」

「はい! また連絡します!」



 とびきりの笑顔でそう言うと、二人は今度こそ保健室から退室していった。



「…兄ちゃん、なんか今のキモい」

「え?」



 麗美は溜め息をつきながら、呆れ顔でそう呟いた。



 あたしは全然そうは思わないけど...。

 あの誠二先輩の時々見せる笑顔…、やっぱり癖になるなあ。

 ほんっと好き。



「あ、そうだ。制服持って来たの。ついでに汗拭きシートも」



 制服を抱きかかえた麗美が汗拭きシートと共にあたしに渡してくれた。



「ありがとう。麗美、着替えるからちょっと見張っててくれる?」

「オッケ」



 あたしはカーテンの影に隠れながら制服に着替え始めた。



「あ、裕子」

「なあに?」

「わたしね、図書部に入ろうかなって思ってるの。牧原くんとこの間、大好きな作家さんの話してたんだけどすごい盛り上がっちゃって。牧原くんがあんなに本読むの好きだなんて、わたし知らなかった。それで、牧原くんも図書部に入るんだって」



 麗美の明るい声が室内に響き渡る。



「え、それは初耳…。まだ入部してないの?」

「まだしてないよ。明日にでも入部届け出そうかなって思って」

「そっか…」



 牧原と麗美が図書部…。


 何だか急な話しであたしは困惑していた。



 牧原は、そんなこと一言も言ってなかったな。

 牧原が部活動やるということは、今までみたいに一緒に帰ったり、放課後どこかに寄り道することもできなくなるってことだよね。

 別に部活に入るのは構わないんだけれど。



 友達なのに、...何か言ってくれてもよかったんじゃないかな、って思う。


 不満を募らせながらも、あたしは素早く着替えを終え、足早にお昼を食べに教室へと戻って行った。
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