Sweet Love
 何なのよ、牧原のやつ。

 本っ当にありえない。



 教室へ鞄を取りに行こうと、あたしは一気に階段を駆け下りた。


 再び階段を下りようとしたところで、ふと廊下に目をやる。


 廊下の先を見ると、見知った後ろ姿が視界に入った。


 涙を拭ってじっと目を凝らす。



 あれは…。

 誠二先輩。



 手にはノートのような物が握られている。


 職員室に寄ってた帰りだろうか。


 しばらく眺めていると、誠二先輩は教室の並びへと歩き出した。



 …先輩。

 あたし、どうしたらいい?

 牧原のやつに、キスされちゃったよ。

 友達だったのに。

 先輩じゃなくて、牧原に唇を奪われた。



 廊下の窓から吹き抜ける風が、制服のスカートをふわりと揺らす。



「早く帰らなきゃ…」



 さっさと鞄取りに行って帰らないと…。


 牧原と鉢合わせになったら困る。


 あたしは落ち込み気味で肩を落としながら再び階段を駆け下りた。


 教室まで鞄を取りに行き、即刻玄関へと向かった。


 だが辿り着く手前で、うちのクラスの担任、茂森先生とすれ違った。



「おお。松田」



 と不意に呼び止められ、あたしは立ち止まる。



「…センセ、何ですか」



 先生と話してる暇なんてないのに。



「最近頑張ってるな、マラソンの練習。大分よくなってるって聞いたよ」

「あ、ハイ。まあ…」



 …なんだ、マラソンのことか。



 ボーダーのポロシャツを指で摘まんで扇ぐ先生は暑そうだった。



「その調子で長距離マラソン頑張ってくれよ。順位に学年なんて関係ないからな」
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