Sweet Love
「センセ、いくらなんでもそんな速く走れないですよ。あたし」

「いや、大丈夫だ」



 何を根拠に言ってるんだ。この、センセは…。


 あたしは苦笑した。



「先輩追い越すなんて無理ですって」

「いや、少なくとも石田は、…あいつは追い越すよ。絶対」



 どうしてここで麗美の名前が出てくるんだろう。



「えっ、麗美ってそんなにタイムいいんですか?」

「かなりね。タイム徐々に縮んでるって聞いたよ。先生も見てたんだけど、石田はいつも楽しそうに走っているぞ。よっぽど走るのが好きなんだなあ、あいつは。松田も少しはもっとやる気を出して、石田を見習え」



 そうなんだ…。


 先生に力強く肩を叩かれ、あたしは若干よろめいた。



「は、はい」



 麗美って結構、…やるんじゃん。


 あんなに見た目はふわふわしてて掴み所がないのに、走るのが速いってどういうこと?


 人は見かけによらず、って言うのは正にこういうことなのだろうか。



「じゃあ頑張れよ。気をつけて帰れ。さよなら」

「…さようなら」



 軽く会釈したあと、茂森先生は階段の方に向かって行った。



 …ハッ。

 あたしとしたことが、つい長話を…。

 そうだ、早く帰ろうと思ってたんだった。



 長話してたのを軽く後悔しながら、あたしは急いで玄関へと足を進めた。


 すると遠くから、男子の複数の話し声と足音が耳に届いた。


 聞いたことがある声だと思い、玄関からひょっこりと顔を覗かせたあたしは、声がする階段の方に目を光らせた。
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