Sweet Love
 …聞かれてないよね?



「はい、お茶どうぞ」



 淡々とした声でそう言った先輩は、淹れたお茶をテーブルの上に並べていく。



「ありがとうございます」

「ありがとう」

「じゃあ、下ごしらえでも始めるとするか…」



 誠二先輩は独り言のように呟いて、再びキッチンへと戻っていった。



 …よかった。

 聞かれてなかったみたい。



 安堵したあたしは、麗美が帰宅してくるまで、優希先輩と他愛ない雑談を交わした。


 それからしばらく経ったあと、ガチャと遠くの方で玄関の開く音がした。遠くから「ただいまー」と言う麗美の声が聞こえてくる。



「あ、麗美ちゃんやっと帰って来たみたいだね」

「はい」



 そのあと麗美は真っ直ぐリビングに入ってきた。



「あ、裕子。ごめんね、…遅くなっちゃって」



 と、申し訳なさそうに手を合わせる。麗美の髪は少々乱れ気味だった。



「あ、ううん。急にお邪魔しちゃって、こっちもなんか、ごめん」

「ううん。嬉しいよ、わたし。裕子がうちに来てくれるなんて」



 にっこりと癒しの笑顔で言う麗美は本当に嬉しそうで、あたしも笑顔を返す。


 あたしはチラリとキッチンに立つ誠二先輩に視線を巡らせた。



「あ、おかえり。マンモス」



 誠二先輩が対面式のカウンターからひょこっと顔を出して言った。


 ニヤッと意地悪な顔で笑う先輩は、完全に麗美をからかって面白がっている様子だ。



「兄ちゃんやめてよ、その呼び方」



 ――へえ…。

 今日は麗美、マンモスって呼ばれてるんだ。



 あたしは思わずその場でぷっ、と吹き出した。



「じゃあ、今日の飯は無しね」

「どうしてそうなるのよっ!」



 麗美がフローリングに片足をガンッと踏む音が部屋中に響き渡る。



「お、マンモスのでっかい足音。静かにしろよな」
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