Sweet Love
 他のクラスの人達も教室掃除を終えたあとは、バタバタと一斉に帰って行った。


 教室に取り残されたのは、あたしと萩原だけ。


 開け放した窓からは、心地よい風が入ってくる。


 静かな教室の中、グラウンドの方から部活動に励んでいる生徒達の掛け声がハッキリと音を拾っていた。


 萩原は自分の席で、今日あたしが渡した漫画を広げて黙々と読んでいる。


 誠二先輩が来るまで暇を持て余していたあたしは、なんとなく携帯のパズルゲームのアプリを開いた。開いた途端、大音量なBGMが耳の鼓膜を刺激する。



「わっ」



 あまりの音量の大きさに驚いてしまい、危うく携帯を床に落としそうになる。



「…うるさ」

「あ、ごめん」



 あたしは急いでアプリを一旦閉じた。



「せっかく真剣に読んでたのに邪魔しやがって」



 萩原は少々機嫌悪そうに言った。



「なんなら、家帰ってから読めばいいじゃん」

「せっかく手元に漫画あるのに黙って待ってろってか」

「…そういうんじゃなくってさ」



 萩原は漫画を紙袋に戻し始める。



 …もう、読まないんだ。



「お前さ」



 萩原は腕を組みながら、椅子の背もたれに寄り掛かった。



「ん?」

「牧原、待ってるの?」

「…違うよ。誠二先輩、待ってるの」
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