Sweet Love
 うふふ、と不気味な含み笑いを浮かべる裕子は、何だかとても楽しそうだった。



「――あのさ、今日の帰りに二人の後をつけてみる、っていうのはどう?」

「…面白そうじゃん。俺ものった!」



 えっ…。

 そこまでしなくたって、…いいのでは?



「…何でわざわざそんなことするの?」

「待った待った。話はあとにしよう。本人のご登場だよ」



 牧原くんの視線は屋上の扉に向いていた。わたしは屋上の扉へ視線を巡らせる。



「あっ…」



 階段を走って来たのか、萩原くんは少し息を切らせながら、わたし達の方へと歩み寄って来ていた。



「……っ…遅くなって、ごめん。めちゃくちゃ並んでて、混んでてさ」



 そう言うと萩原くんは、わたしにパンが入った紙袋をずいっと前に差し出す。



「…はい」

「ありがとう…」



 萩原くんから受け取ろうとしたとき、微かにお互いの指先が一瞬だけ触れた。不覚にもドキっとしてしまう自分がいて顔が熱くなりそうだった。


 わたしは誤魔化すように顔を伏せ、紙袋の中身を覗く。


 中に入っていたのはメロンパンだった。



「あの、本当にありがとう。あとでお金返すね」

「いいよ。俺の奢り」

「でも…」

「返さなくていいって、今日ぐらい。それより早く食べたら? 時間無くなるよ」

「あ、ありがと…」



 半分、紙袋から取り出したわたしは、メロンパンにあむりと齧り付く。


 外側も美味しいけど中もふわふわしていて、おいしっ…。


 いつもお弁当が当たり前だったわたしは、購買のパンがこんなにも美味しいものだったのかと思い知らされる。


 萩原くんから貰った初めてのメロンパンは、普通のメロンパンよりも、何故かとっても甘く感じた。
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