Sweet Love
 なんとか作業を終えた頃、萩原くんがゴミ箱を持って教室へ戻って来た。



「よし…これで終わったな。じゃ、俺帰る」

「あ、うん。バイバイ」

「じゃあね、萩原」



 わたしと裕子は萩原くんに軽く手を振る。それに合わせて、萩原くんは片手だけ上げてこちらに手を振り返した。


「じゃあな」と言うと、萩原くんは呆気なく教室から出て行った。会話があまりできないのは何だか少し物足りない気がする。


 遠退いていく足音を計らってから、裕子は言った。



「さて、あたし達も行きますかっ!」



 裕子は、かなり本気のようだ。わたしは苦笑して、牧原くんのことを尋ねた。



「あ、ねえ牧原くんは? 一緒に行くって確か言ってなかったっけ」

「うん、だからまだ学校にいるよ。確か図書室で時間潰すとか言ってたかな」

「そっか…」



「とりあえず牧原をさっさと迎えに行って、例のあの二人をつけに行かないと」と、親指を立てながら裕子は言った。まるでその行為に義務感があるような言い方だった。


 わたし達は帰る準備をすぐさま済ませ、廊下に出ると図書室に向かって歩き出した。


 階段の踊り場に差し掛かった頃、偶然にも牧原くんとすれ違う。



「おおおっわ、びっくりしたー。掃除終わった?」

「鞄持ってんだから見たらわかるでしょ。終わったから今あんたを迎えに行こうとしてたの。バカじゃないの?」



 裕子はいつも牧原くんにキレ口調だ。何か恨みでもあるのだろうか。ハラハラしながら、わたしはじっと二人の様子を見守る。だが、牧原くんがキレる様子はない。



「まあ良いじゃん。とりあえずだけど、さっそく行きますかっ」

「ねえ、もしバレたらどうするの?」

「バレたらバレたでそのときはそのとき!」

「……」



 先に歩き出してしまう二人に、わたしは追い掛けながら話し掛けた。



「今どこに向かっているの?」

「玄関に決まってるじゃん。下駄箱を確認するの。上靴がなければまだ学校にいるってことだし」

「…もしなかったら?」

「まだ萩原と別れてからそんなに時間は経っていないでしょ? まだ近くにいるはずだから追・い・か・け・る・の」
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