Sweet Love
 わたしはそのまま朱菜ちゃんから目を逸らして、優希さんの元へ向かった。



「優希さん、すいません。…こっちはもう終わりました」



 優希さんは酷く驚いたような顔でわたしを見下ろす。それもそうだろう。ついさっきまで、わたしは泣いていたのだから。驚くのも無理ない。



「麗美ちゃん…? 大丈夫?」

「はい。大丈夫です」



 わたしは極力誤魔化しながら、更に変に思われないよう、笑顔を作る。


 何があったのか訊かれると思って少し身構えてみたけれど、優希さんは何も訊いてこなかった。それでも、心配そうな顔でわたしを見つめている。


 一拍の間を置いてから、優希さんは言った。



「…じゃあ、お会計行こうか」

「はい」



 わたし達は一緒にレジへ進む。


 待っている間、優希さんはずっとわたしの顔を見ていた。心配そうな表情であることには変わらない。それでも訊いてこないのは、きっと、彼なりにわたしのことを気遣ってくれているからだと思う。



「レジ、すごい並んでるね」

「夕方ですもんね」



 優希さんは普段通りの笑顔でわたしに接してくれた。


 わたしは内心で彼に謝った。心配を掛けてしまい申し訳ない気持ちと、何も訊かないでそっとしておいてくれる優希さんに、わたしは心の中でありがとうと彼に言った。



***



 優希さんとスーパーから出たあと、わたしは敷地内の角にふたつの怪しい人影を見掛けた。それが誰であるかは、見当がついていた。



「優希さん、すいません。先に家に向かっててもらっていいですか? 兄ちゃん、帰ってますから」

「…うん? わかった。じゃあ先に行ってるね。あ、荷物は僕が持って行くから大丈夫だよ」



 そう言って彼は、さり気なくわたしの手からビニール袋を取っていく。



「…すみません」



 わたしは優希さんの姿を見送ったあと、そのふたつの影の元へゆっくり近付いた。



「ちょっと…二人とも。何やってるの」



 そこには、裕子と牧原くんが一緒になってしゃがみ込んでいた。二人は、にやにや笑いながらわたしを見上げている。



「ちょっとちょっと! 今のだーれよ!?」

「…先輩だよ。優希先輩。もう何度か見てるでしょ」

「え、付き合ってるの?」

「ま、まさか。付き合ってないよ。さっきは買い物に付き添ってもらっただけ」

「なんだ。残念」



 牧原くんは、「違うのかぁ」と落胆した声で呟きながら、つまらなさそうに肩を落とした。
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