Sweet Love
「えー、てっきり内緒で付き合ってるのかと思っちゃった」

「俺も、てっきり麗美ちゃんの彼氏かと思った」

「ち、違うよ!」



 わたしは慌てて首を振り、それを否定した。



「麗美、それよかあんた顔ぐっちゃぐちゃじゃん。どうしちゃったの!?」


「…これは、その…さっき……蜂に追いかけられて。お店の中で…ははっ」



 わたしは咄嗟に嘘をついた。こんなバレバレな嘘なんかついちゃって、変に思われたりしないだろうか。


 わたしは、恐る恐る二人の反応を窺う。



「蜂に追いかけられたあー?」

「……麗美ちゃん、蜂に追い掛けられたくらいで泣いちゃったの?」

「う、うん」



 裕子と牧原くんが、わたしの顔をじっと見てくる。もしや、ばれてしまっただろうか。



「……麗美ちゃん、マジ可愛いんだけど」



 牧原くんが急にわたしの手を取る。何を思ってそうなったのか、すりすりと手の甲を撫で始めた。唐突過ぎる行為に、わたしはつい固まる。


 次のあと、裕子が牧原くんの頭に拳骨を打ち込む。ボコッと良い音が鳴った。



「…いってぇ」

「あんたねえ、か弱い麗美にいきなり口説こうとするのやめなさいよ、キモイから。麗美が困ってるでしょうが」



 ――裕子が本気で牧原くんに怒っている…。



「わかった、わかった。俺が悪かったって。――それより麗美ちゃんさ、萩原達、中で見なかった?」



 そう言われて、さっきの嫌な光景が頭に浮かんできた。



「…見たよ。ていうか、偶然会った…」

「何か話した?」

「あまり話してないけど、挨拶程度なら少し…」

「どうだった?」



 どうだったって訊かれても、何て答えればいいのだろう。正直に嫌でしたって言うわけにもいかない。本当の気持ちを話せば、二人を混乱させてしまう。



「二人ともすごく仲良さそうだった」



 ――うん、仲良く買い物してたもん。

 わたしに会うまでは。



「そうなんだ。俺達が見てる限りでも、なんていうか普通のどこにでもいるようなカップルだったよ。帰りは手繋いじゃったりなんかしてさ」

「……ねえ、牧原くん。萩原くんの家ってこの辺なの?」

「うん。正にその通り」



 ――そうだったんだ…。

 わたし、萩原くんと地元が近いんだ。

 知らなかった。
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