Sweet Love
 わたしは頷いて、兄ちゃんにお茶が載ったお盆を手渡した。


 なのに、兄ちゃんはまだ用があるのか、じっと黙ったままこちらを見つめてくる。



「な、何?」

「…いや、なんでもない」



 兄ちゃんはリビングの扉を開けて廊下に出ると、こちらに振り返った。扉からひょっこりと顔だけ出して、兄ちゃんは言う。



「お前さ、なんか面白くないことあるんなら遠慮せず俺に言えよ」



 ……はい?

 面白くないことって何…。

 訳がわからない。



 わたしは首を傾げた。



「どういう意味?」

「まあ、俺じゃなくてもいいし、母さんでもいいし。んー…、簡単に言うと、もっと人に頼れってことだ」

「……」



 兄ちゃんはそのまま、リビングを出て行く。わたしは何も返せず、しばらく立ち尽くしていた。



***



 わたしがカレーを煮込んでいると、優希さんと兄ちゃんが二階から下りてきた。



「美味しそうなカレーの匂いするから、待ちきれなくて来ちゃった」

「優希、こいつが作ったカレーにはな、きっと毒入ってるぞ」

「兄ちゃん、うっさい!」

「食ったら、死ぬぞ?」

「兄ちゃん!」



 わたしは、兄ちゃんを力いっぱい冷たい目で睨んだ。


「ひ、ひどいね、誠二」と、優希さんは苦笑を浮かべる。



「あの優希さん、さっきはありがとうございました。材料もまとめて置いてくれたみたいで…」

「ううん。作ってもらうのに、それくらいどうってことないよ」



 優希さんはわたしににっこり笑顔を見せると、突然わたしにお菓子の袋を手渡してきた。



「はい、これ。あげる。さっきスーパーで買ったんだ。麗美ちゃん、…なんか元気なかったから。甘いの食べて元気になってね」

「…ありがとうございます」



 ――やっぱりあのあとも心配してくれていたんだ。



 あのあとも、今も、何も訊いてこなかったけれど、今でも優希さんはわたしのことを心配してくれている。彼のその気遣いに、わたしは心の底から感謝した。


 お菓子のパッケージを見てみると、ポテチをチョコでコーティングされてるようなイメージ写真が載っている。



 ――え…チップスにチョコって合うのかな。



 甘いのか、それともしょっぱいのか、そのどちらなのかはよくわからない。



「あとで食べてね」

「はい。あとでゆっくり頂きます」
< 39 / 199 >

この作品をシェア

pagetop