Sweet Love
 目の前に朱菜ちゃんがいるものだから、わたしは先ほどから全然本に集中できないでいた。


 早く立ち去って欲しい。動けないわたしは心の奥底からそう願う。すると、突然彼女が本を閉じた。


 内心で、わたしの思考が彼女に伝わってしまったのではないかと、不安になる。


 本を棚に戻しに行くわけでもなく、朱菜ちゃんは何故かその場から動こうとはしなかった。



 ――ていうかわたしのこと、完全に見てるし…。



 まるで、観察でもされているかのようだ。正直、居心地が悪い。でも動けない。――どうしよう…。


 だが突然、朱菜ちゃんがわたしに口を開いた。



「石田さん」



 わたしは、恐る恐る朱菜ちゃんの顔を見る。不意打ちを食らって、返事が遅れた。



「……な、何?」

「単刀直入にお訊きします。……いいですか?」



 わたしに何を訊くというのだろう。さっきから手の汗が止まらない。



「…うん。何?」

「では、お訊きします。石田さんは翔くんのこと、どう思っているんですか?」

「え……」



 わたしは何も言えなかった。


 直球にそんなことを訊かれるとは、予想もしていなかったからだ。唐突すぎるのもあるけれど、何より朱菜ちゃんが恐くて言葉が出せない。



「答えられないんですか?」

「……どうしてそんなこと…わたしに訊くの?」



 わたしは、消え入るような声で呟いた。



「…わたしが先に訊いているんですけど。答えられないってことは翔くんのこと、好きってことですか」

「それは……ないよ」



 朱菜ちゃんは、氷のような冷たい視線をわたしに向けた。



「まぁ別に、どちらでもいいんです。好きでも好きじゃなくても。でも、それで翔くんの気を引くのはやめてもらえませんか」

「わたし、…萩原くんに気なんか引いてないよ…」

「石田さんが気付いていないだけですよ、そんなの」

「…どういう…こと?」

「だって翔くんが、石田さんのこといつも目で追ってるから」

「……」



 反応できずにいると朱菜ちゃんは深い息をついた。突然彼女は椅子から立ち上がり、本棚の並びへ歩き出す。


 本を戻し終えたのか、そのまま真っ直ぐ引き戸に向かう。ガラッと引き戸を開け、最後にわたしを無言で睨みつけると、彼女は図書室から出て行った。
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