Sweet Love
 ――萩原くんがわたしを、目で追っている? …そんなの全然知らなかった。

 わたしが萩原くんを避けているから、だからわたしが悪いって言うの…?

 気を引くなんて、そんなつもりはこれっぽっちもない。



 彼女のさっきの目。あれは、わたしに敵対心を抱いているような、そんな目だった。


 思わず溜め息が漏れる。読みかけの本を再開する気にもなれず、わたしは本を閉じた。



***



 鞄を取りに教室に戻ると、萩原くんがまだ残っていた。机に鞄を置いて、彼はそれを枕にしながら寝ている。教室には萩原くん以外、誰もいなかった。



 ――何で、まだ教室にいるんだろう。

 そうだ、朱菜ちゃんは?



 一度、廊下に出て左右を見渡す。けれど、彼女はどこにもいなかった。


 ――わたしの席は萩原くんの前なわけで。だから当然、近付かないと、鞄を取りに行くことができない。


 わたしは、足音を立てないようゆっくりと自分の席へ歩み寄った。


 無事に席に辿り着いて鞄を手に持ったわたしは、萩原くんの寝顔をさりげなく盗み見る。彼は気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てていた。


 わたしはそっと萩原くんの頬に手を当てる。とても無意識な行為だった。


 触れてしまってから、わたしはハッと我に返る。わたしは何をやっているんだろう。やってしまったと後悔しながら、萩原くんの顔を見つめた。



 …寝顔、…可愛い。

 教室じゃなくて、家に帰ってから寝ればいいのに…。



 起こさないよう慎重に手を離し、教室から出ようとすると、突然背後から短い声が漏れた。



「へっ…」



 ……え?



 わたしは、反射的に後ろを振り返った。
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