Sweet Love
「わかってくれたなら、それでいいよ」



 萩原くんは、わたしの頭をくしゃっと撫で廻した。


 彼の優しすぎる笑顔を見て、ズキンと胸が疼く。



「よし、帰るか」

「うん」



 ――それから校門を出たわたし達は、坂の道を下る。


 空を仰ぐと、いつの間にか夕焼けの空が広がっていた。深みのある、オレンジ色の空だ。


 見ていると、綺麗だとは思うけれど、少し切ない。多分その原因は、夕陽がほんの短い時間でしか見ることができないからだと思う。



「俺、お腹空いた」

「わたしも…。もう夕方だもんね」

「うん…。早く帰って何かとりあえず食べたい」

「…ね」



 道路先を見つめながら、わたし達はそんなどうでもいいことをボヤいていた。



「そう言えば石田、ホームルーム終わったあとどこ行ってたの」

「……図書室だよ。本読むの結構好きなの」



 図書室の単語が出てくると、自然に朱菜ちゃんの顔が頭に浮かんでくる。


 今頃、…朱菜ちゃんはどうしているのだろう。



「――へえ、意外」

「意外って何よ…。図書室ね、お昼休みに行ったら結構、人が沢山いるから、あんまりわたしは行かないの」

「ふうん…何で?」

「人が多すぎて、落ち着いて読めないから…かも」

「そうなんだ」

「うん。それにちょっとした音とか結構響きやすいんだよ」



 少しだけ得意気に言ってみた。



「それは、図書室が静かだから余計響いて聞こえるだけじゃないの」

「そ、そうかも…」



 …確かに。

 今わたし、ツッコミ受けた?



「石田って時々、面白い」



 萩原くんはクククっと笑いながら、肩を震わせた。



「なんか天然入っているっていうか、何ていうか…」



 笑い出してから、一向に収まる気配はなかった。



「萩原くん、笑いすぎっ…」



 わたしはそんな萩原くんを見て、頬を膨らませた。
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