Sweet Love
 バスがどんどん進んでいく中、わたし達の間には会話がなかった。そして、未だにわたしは窓を見ていた。どこを見ていればいいのかわからないのだ。隣に萩原くんが居るだけで、変に意識してしまう。


 何を話そうか懸命に考えてみたけれど、特にこれといって思い付く話題がない。時間が経てば経つほど、緊張が高まっていく。ちょっとした動作で体を動かそうとしたくても、動けなかった。


 もうすぐ、このバスは中間地点に達そうとしている。


 そんなとき、バスがカーブを曲がっている途中、わたしの肩に突然ズシンと重みが走った。


 急激に加えられた重みに、不思議に思いながら横に振り向くと、彼の髪の毛がわたしの唇に当たった。



 ――え…?



 萩原くんはなんと、わたしの肩で眠っていたのだ。



 え…。

 また寝てる。

 しかも、わたしの肩で…。

 ば、爆睡……?



 思わず、心臓の鼓動が更に早くなる。――このままだと、気絶してしまうかも知れない。


 起こそうかと随分迷ったが、わたしは萩原くんをゆっくり寝かせてあげようと思った。


 しばらく動けなくて黙っていたわたしは再び窓に目をやる。窓の景色をよく見ると、中間地点を大分通り越していた。



 …あ、萩原くんどこで降りるんだろ。



 今起こさないと、乗り過ごしてしまったらそれこそ大変だ。わたしは萩原くんの肩を遠慮がちに揺すった。



「萩原くんっ。…萩原くん」



 バスの中ということもあり、わたしは声のトーンを少し控えめに抑える。揺すりながら、何度も彼に呼び掛けた。
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