Sweet Love
 しばらく経つと、遠くから廊下を走る音が聞こえてきた。その足音は、着実に図書室へ近付いて来ている。


 引き戸がガラッと勢いよく開いたので、見てみると、息を切らせた裕子と牧原くんがそこに立っていた。二人は、わたしの姿を真っ先に見て、すぐに駆け寄る。



「麗美っ! 大丈夫?」

「麗美ちゃん、顔真っ赤に腫れてるよ…」

「大丈夫…」

「話する前にまず冷やさないと。大丈夫? 立てる?」

「…うん」



 裕子の手を借り、わたしは今やっとここで初めて立ち上がった。



「牧原、あんたは鞄持ってあげて」

「ん。わかった。…よし、保健室に行こう」



 裕子に支えられながら、わたし達は保健室へと向かった。


 保健室の中に入ると、消毒液のあの独特な臭いが室内を包み込んでいた。



「失礼します…」



 保健医の先生、あゆみ先生が、デスクで何やらノートパソコンを開いて作業している。



「あらあら。どうしちゃったの?」



 先生はノートパソコンをすぐに閉じ、足早にわたしの方へ駆け寄る。


 そして、じっくりとわたしの顔を見てきた。



 ――顔が…近いっ…。



 わたしは、無性に恥ずかしくなり下を向いた。



「あゆみ先生。何か冷やせるものありませんか?」と、わたしの代わりに、裕子は言った。



「ちょっと待って。今氷のう出すから、適当に座ってて」



 先生はそう言うと、消耗品を管理している大きい棚に背を向け、準備をし始める。わたしは、丸椅子にストンと腰を下ろした。
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