Sweet Love
 氷のうを持ったあゆみ先生が前に立つと、わたしの胸元辺りの名札を見て言った。



「はい、どうぞ。――石田さん」

「あ、…ありがとうこざいます」



 わたしが手に受け取ると、あゆみ先生は一旦デスクに戻った。



「先生、ちょっと出るからゆっくりしてていいからね」

「…あ、はい。すみません」

「何があったかは...無理に訊かないから安心して」



 控えめににこりと微笑みながらそう言うと、ノートパソコンを手に持ったあゆみ先生は、保健室を出て行った。


 もしかしたら気を利かしてくれたのかも知れない。



「麗美、ちゃんと冷やさないと」

「あ、うん」



 わたしは、一番痛む左頬に氷のうをぴったりとくっ付けた。



「一体何があったの?」



 わたしは二人に、これまでの経緯を簡潔に説明した。


 わたしが萩原くんを好きだという気持ちも。朱菜ちゃんとの今までの出来事も全て。最初に二人を応援すると言っておきながら、本当は嫌だった気持ちも、苦しくて辛い気持ちも二人に打ち明けた。


 裕子と牧原くんは、途中途中相槌を打ちながら、真剣にわたしの話を聞いてくれていた。



「……萩原、奪っちゃえば?」

「え…」

「そうだよ。奪っちゃえって」

「え、そんなの無理だよ…」

「花咲さん気にするより、萩原の気持ちが、…重要だと思わない? 萩原がどう思うかってところがさ」

「あんた、顔に似合わず、珍しく良いこと言うんじゃない」



 裕子は、牧原くんの肩をぺちっと叩いた。



「だろ?」

「……」
< 61 / 199 >

この作品をシェア

pagetop