Sweet Love
 リビングに入ると、制服を着た兄ちゃんの姿があった。ソファーに足を組んで座っている。通常、兄ちゃんはわたしより起床時間が早い。平日でも、休日であっても毎日欠かさず早起きする。


 わたしは真っ先に、兄ちゃんに「おはよう」と声を掛ける。



「はよー」



 兄ちゃんはこちらの顔も見ず、新聞紙と睨めっこ。意識の大半は新聞に向いているようだ。



「お母さんは?」

「もう出た」

「そっか…」



 わたしはそのまま冷蔵庫に向かい、ペットボトルのお茶を取り出す。次にボトルカバーに入れてから、それをリュックに詰めた。リビングテーブルの上には、お弁当がきちんと置かれている。お弁当を手に取って、それも一緒にリュックに入れた。



「…いいなあ。遠足」



 不意にそんな声が漏れた。視線を巡らせると、兄ちゃんは羨ましそうな目でわたしを見ている。



「……でも、山登るんだよ?」

「いや、授業受けるより、そっちの方がマシ」

「…そ?」

「そういや、朝飯いらないのか?」

「うん、いらない。…今日玄関前で集合だから、もう出るね」

「ああ。…行ってらー」



 兄ちゃんは新聞に目線を戻す。行ってきます、と言ってから、わたしは家を出た。
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