Sweet Love
 やがて車内では、いつの間にかおやつ交換が始まり、存分に盛り上がっていた。友達同士で座席を交換して座ってみたり、わいわいと騒ぎ立て、とても賑やかに見える。時々、先生の注意の呼び掛けが飛び交うこともあった。


 そんな喧騒の中、裕子はわたしにある提案をする。



「ねぇ麗美、今日お弁当一緒に食べようって萩原に誘ってみたら?」

「え。わたし、裕子とお弁当食べようと思っていたんだけど…」

「そしたら、またいつものように四人でお弁当食べようよっ。それなら簡単に誘えるじゃん?」

「…うん。それなら、…誘えるかも」

「じゃあそうと決まれば、今約束して来なさいっ!」



 “今”という言葉を強調して、彼女はわたしの肩をバシッと平手打ちする。



 ――いっ…た。



 わたしは仕方なく立ち上がって、萩原くんの座席へ移動しようと通路に出た。


 見たところ、彼の姿は確認できたが、隣に今まで座っていた牧原くんの姿が見えない。


 奥まで見渡すと、いつしか牧原くんは後部座席に移動していて、他の男子と喋っている。


 わたしは通路を歩き進めて、彼がいる座席の横で立ち止まった。



「…萩原くん。ちょっと、…隣座ってもいい?」



 緊張しながら恐る恐る声を掛けると、萩原くんはわたしを見上げた。


 わたしに気付いた彼は、「いいよ」と応える。


 遠慮がちに隣に座ると、あまりの近さに更に緊張して、心臓が大きく跳ね上がった。


 教室で後ろに座っているのと、隣で座っているのとでは、また訳が違う。然程変わりない距離でも、全くの別物だ。


 どこを見ればいいのかわからなくて、わたしは自分の膝を見つめた。もうお昼のお誘いのことなんてすっかり忘れてしまっている。



「……あ、そうだ」

「ん?」



 ぼそりと呟いた彼の声に、わたしは首を傾げた。


 萩原くんは、急にリュックを開けて、中身をガサゴソと漁り始めた。


 一体何を探しているのだろうか。


 わたしは、その様子を黙って見ていた。
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