Sweet Love
「…階段うるさいぞ、ゴリラ」



 へ…? それってわたしのこと?

 相撲取りの次は、わたし、…ゴリラ?

 第一声がそれって酷くない?



 デスクの椅子に座ってヘッドフォンを外しながら、こちらを振り返る兄ちゃん。右手にはシャープペンが握られていた。



「…ゴリラって何よ、ゴリラって。兄ちゃん、わたしのお弁当に何か仕組んだでしょ。おかげでこっちはお腹痛くなったんだから!」



 傍らにあった抱き枕を拾い上げ、それを投げつけてみたが、兄ちゃんはそれを上手く避けてしまう。



「あー、……わかった。多分アレだ、アレ」



 兄ちゃんは手を前後に扇ぐ。



「アレって何よ…」

「鶏の唐揚げ」

「ま、まさか…」



 兄ちゃんは、にやりと意地悪そうな笑みを浮かべた。



「火、ちゃんと通ってなかったのかもな」



 信じられない。



「…兄ちゃん、もうわたしのお弁当作らないでよね」



 そう告げて、キリッと睨み付けたあと、わたしは兄ちゃんの部屋のドアを乱暴に閉めた。



「ドア壊すなよ、ゴリラ」



 ドアを挟んだ向こう側から、兄ちゃんのそんな声が聞こえる。


 呆れて、言い返す気にもなれなかった。



 ――兄ちゃん、本当憎たらしい。

 いつか、…絶対、痛い目に合わせてやるんだから。



***



 その日の夜。夕食を終えてお風呂も済ませると、わたしは部屋のベッドでごろごろしながら携帯と睨めっこしていた。


 萩原くんに、何て送ろうか。本文はどうすべきか。あれこれ考えている内に、かれこれ二〇分以上は経過していた。写真は添付したが、なかなか入力画面のまま動けず、打っては消してを何度も繰り返している。



 ――普通に送ろうかな…。

 さっき撮った写真だよ、とか。

 今日はありがとう…とか?

 普通すぎるかな…。

 こういうの考えるの本当に苦手だよ、…わたし。



 携帯を見つめていると、次第に瞼が重くなっていった。


 何だか眠ってしまいそうだ。きっと、疲れているのかも知れない。おそらく慣れないことをしたから、全身に疲労が溜まっているのだろう。


 急に眠気が襲い、あとで送ろうと思ったわたしは、携帯を握り締めた状態で目を瞑る。


 意識が遠ざかるまで、そんなに時間は掛からなかった。


 わたしは、いつの間にか眠ってしまっていた。
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