Sweet Love
***



「あー、面白かった! 満足満足!」

「…そ、そうか?」

「裕子、本当に怖いの好きなんだね…」

「牧原、…かなりビビってなかった?」



 映画を観終わったあと、わたし達は、映画館の近くの喫茶店で少し遅いお昼を摂っていた。


 ソーダフロートの上に浮かんだアイスを食べてる牧原くんの手がピタリと止まる。



「……怖いのはどうも苦手なんだよなあ、…俺」



 ブルブルと身体を震わせ、再びアイスを口に運んでいく。



「…わたしも、苦手」

「ヤッベェ。なんか…寒くなってきたわ…」



 そのとき、裕子が牧原くんの背中を叩いた。



「それはあんたが今フロート食べてるからでしょうがっ!」



 先ほど映画を観ているとき、牧原くんの様子は明らかにおかしかった。上映中、彼は身体を震え上がらせ、顔を伏せながら裕子の袖にしがみついていたのだ。エンドロールに入るまで、牧原くんはずっと裕子から離れなかった。


 わたしだって、あれは確かに結構怖かったけれど。


 それにしたって、あれは少し度を越えてる。ともかく、牧原くんが相当怖がりであるのはわかった。



「麗美、食べないの?」

「…あ、食べるよ」



 わたしは、パンケーキにフォークを突き刺して口に運んだ。



「ねえ、これからどうする?」



 向かいの席で裕子がわたし達に言った。



「ゲーセンでも行く?」

「あー、行く? 萩原。あんたは?」

「…いいんじゃない」

「わたしも。ゲーセンでもいいよ」

「じゃ、ゲーセンで決まりっ」



 そのあと喫茶店を出たわたし達は、街の人混みをすり抜けながら、ゲームセンターへと向かった。


 昼下がりの街はまだ車も多く、通行人も絶えない。きっと夜もこんな感じなのだろう。何だか人に酔ってしまいそうになる。



「…なんか混んでるね…」

「休日だからな」

「そ、それにしても裕子達、歩くの早いね」

「…そうだな。あの二人を見てたら、本当に焦れったいよ」



 萩原くんは、前の二人を見つめながらクスッと笑う。



「や、やっぱり、裕子って…」

「ああ…多分気付いてないよ、好きだって」

「牧原くんは? 萩原くん、いつも一緒にいるよね。裕子の話題とか出ないの?」
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